「The Jazz Cruise」カリブ海の船上ジャズフェスティバル(後編)

ジャズライブはOcean Bar, Crow’s Nest, Queen’s Lounge, Main Stage Show Loungeの全4箇所で約1時間半のショーが開催されます。各会場のライブが30分オーバーラップする形でスタートするので、1時間半最初から最後まで一つのグループの演奏をじっくり聴くか、半分程で切り上げグラス片手に次の会場へ移動するか、そのあたりは全く自由。

乗船初日ジェブはオフだったのでディナーを済ませ、7時半から既に始まっていたPaquito d’Riveraグループの後半を聴きに11階のCrow’s Nestへ。パキートはグラミー賞を12回ほど受賞しているラテンジャズの大御所。会場はエキサイティングなラテンのリズムで溢れていました。このバンドはとにかくタイト。特に、パキートとベースのOscar Stagnaroの息がぴったりで、パキートのアドリブや不意のキューにも瞬時に反応してバンドをリードしていくのは痛快の極み。今回このグループに参加したスチールドラム奏者のVictor Provostは今回寄港するセント・トーマス出身でD.C.を拠点に活動しています。ジェブが一昨年彼のアルバムレコーディングに参加した縁もあり、今回は再会を楽しみにしていました。また、若手ピアニストのAlex Brownはジェブと同じD.C.出身で、クラシックに裏打ちされたテクニックと音楽性の持ち主。アフロキューバンやタンゴも弾きこなす将来有望なピアニストです。

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次は急ぎ足で9時からのOcean Bar、Kenny Barron Trioへ移動。ケニー・バロンは言わずと知れた大御所ピアニスト。そしてメンバーにはアメリカの第一線で活躍しているベーシストの北川潔さんがいます。既にスタートしていたので満席。ジェブに限らず若手ピアニストなら、ケニーのアプローチやヴォイシング、テクニックに触れる事は非常に刺激になります。若手ミュージシャン達も続々と集まり邪魔にならない様に立ち見で食い入る様に聴き入っていました。演奏終了後の北川さんと御年93歳のジャズファンでミュージシャンの間でも有名なソルさんと記念写真。

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この後11時半から夜中の1時までNat King Coleの叔父にあたる、Freddy Cole(Vo. & P)グループのLate Night Showを堪能。フレディーはナットよりもずっと若いのですが、ナットの父の歳の離れた末弟に当たるので叔父なのです。弾き語りのスタイルはナット仕込みで声質も似ています。元々声を伸びやかに張り上げるタイプではありませんが、今や84歳なので声も若い頃に比べると艶や力強さはありませんが、独特の語り口や節のつけ方には燻し銀の味わい、説得力、そして大人の余裕があります。ヴォーカリストの私としては沢山気づかされることがありました。

海の波も穏やかに順調にスタートしたクルーズ。全てを書くととても長くなってしまうので、Day 2以降は印象に残ったライブと寄港地でのアクティビティーを中心にご紹介していきます。

乗船二日目は丸1日海の上。美味しいモーニングコーヒーをゲットしにCrow’s Nestへ。午前11時半からのJohn Pizzarelli(G) & Randy Napolean Duoライブをコーヒー片手に暫し鑑賞。ジョンは歌って演奏するエンターテイナー。何度も日本ツアーに来ているので日本にもファンは多いです。一方ランディはFreddy Coleグループのギタリストで、私たちの親しい友人でもあります。こんなバンドを超えたセッション企画もジャズクルースならでは。このステージは二人のその場での思いつきで選曲していたようです。一曲目はWes Montgomeryの“Four on Six”ちょっと懐かしく嬉しい曲。アメリカでもやはりジャズギタリストなら、硬派なウェスは共通言語の様です。普段は歌も歌ってスイングスタイルのジャズで独自の音楽を展開しているジョンですが、この人はシリアスにギタリストなんだと感じました。彼はジョークのセンスもあり観客を笑わせるのも上手。「ランディーは高校を卒業したばかりの、とっても才能ある若手だよ。」なんて紹介して会場が湧きました。写真では分かり難いですが、ランディーは本人も認めざるをえない程、欧米人には珍しく本当に若く見えます。とうに30代後半で一児のパパなんですけどね。

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その後、Queen’s LoungeのDick Hyman(P)とKen Peplowski(Cl & Ts) Duoを覗いてみると、演奏してる二人も白髪頭なら客席も白髪頭で満席。ディックは演奏者というよりは、教育者、アレンジャーとして大変有名で私達も彼の本には大変お世話になっています。彼らの演奏はエレガントな室内楽的ジャズと言ったらいいでしょうか。終盤二人のクラリネット奏者がジョインして、ジャズ版ウッドウィンドアンサンブルの格調高いハーモニーに包まれました。

昼下がり、船の中を歩き回っていると、メインステージでは夜10時半からの企画コンサートの為にビッグバンドとDee Dee Bridgewaterのリハーサルが行われていました。16人編成のビッグバンドで歌う場合はリハーサルがとても重要。ヴォーカリストが持参した初めて見るパート譜面でもすぐ演奏ができるのは、ハイレベルなメンバーだからこそ。そしてバンドリーダーは初めて見るスコアをその場で理解し、16人のサウンドを自在にコントロールしながらヴォーカリストに最高のパフォーマンスをさせるのです。リハーサルを見学するのはとても勉強になります。

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クルーズではライブばかりでなく、Conversation with Starsというトークショーも行われます。この日はベーシストのMarcus Millerが司会になってKurt Elling, Nikki Harris, Ann Hampton Callawayの3人のヴォーカリストをパネルに事前にとったアンケートをもとに興味深い質問をしていました。印象に残ったのはリハーサルから遅れて駆けつけたDee Deeの言葉。「歌う時はまずエゴを捨てること。ステージ上で私は船みたいな役目だと思う。そこで発生しているサウンドやリズムに反応して、自分からは歌詞やフレーズをミュージシャン、観客、音響エンジニアに発してその空間を全員で共有するための船。」日本語に訳すとかなり抽象的ですが、これはヴォーカリストに限らず舞台に立つ人間にはピンと来るのではないでしょうか。

そうこうしているうちにCharles McPherson Groupの出演時間が迫り、Crow’s Nestへ移動。チャールズはBebopスタイルを継承するヴェテランのアルトサックス奏者。早いテンポでエキサイティングに演奏するのが持ち味。この夜はオリジナル曲“Marionet,”“Night Fall”の他、“Cherokee”等のスタンダード中心に11曲演奏。ステージに緩急をつける為に、ショーの中程で必ずジェブは一曲ソロピアノ演奏のすることが暗黙の了解になっています。この夜は古いスタンダードから“Oh Look At Me Now”をミディアムスイングでストライド奏法も交えて演奏し観客を楽しませていました。後半は満場の会場から曲のリクエストの声が上がるほど、皆さんご機嫌。この後Anita’s Big Band featuring Dee Dee Bridgewaterへ。彼女独特のフレージング、コミカルでパワフルなパフォーマンスを堪能。コンサート終了後にDee Deeと少しお話しをしました。彼女はステージ上では大きく見えるのですが、実際はとても小柄で驚きます。なんと65歳。遠目に見ても体を鍛えているのがよく分かりますし、とてもお洒落でキュート。自分自身をよく知っている人だと感じました。

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Day 3、ドミニカのUnber Cove(琥珀湾)に寄港。冒頭の写真がそれです。日差しがとても強く、カリブに来たぞ、という気がします。特に観光に出かける時間もないので、港のカフェでドミニカのコーヒーを飲みながら他のミュージシャン達とお喋り。ここは読んで字のごとく琥珀湾と名前が付いていますが、琥珀の産地で大変貴重な青い琥珀はここだけでしか採取されないそう。

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この夜一番楽しかったのは、メインステージで行われた企画Dancing to the Music of the Houston Person Quintet。ヒューストン・パーソンはヴェテランのテナーサックス奏者で、ソウルフル且つスイートで骨太なサウンドが持ち味。様々なクルーズで引っ張りだこです。ピアノの名手John DiMartinoのサポートで会場も盛り上がります。ゲストが参加して踊ることを前提としたステージでは、ミュージシャンは色々なリズムの曲を途切れる事なく演奏しなければなりません。それもヴェテランの彼らだからこそできる技。ゲスト達もオフのミュージシャン達も集まって思い思いに踊っています。そう、欧米でも年配の方達はペアダンスが上手。普段恥ずかしがって踊らないジェブも、「僕たちもダンスフロアに行こうよ。」って言ってくれました。

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Day 4。この日はSt. Thomasに寄港。メーガンズベイ・ビーチという素晴らしいビーチへ。

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港からツアーのトラックに揺られること20分ばかり、穏やかでのんびりとした入江にやってきました。澄んだ水の中にはよく見るとメダカほどの透明な小魚が沢山泳いでいます。ひとしきり泳いでお腹も空いたので、ビーチに一つだけある売店でありきたりなピザとハンバーガーとフレンチフライ、バーではピニャコラーダとマルガリータを注文。海をぼーっと眺めながら舌鼓。ここでの食事は期待を裏切る美味しさで、ジェブも私も大感激。フレンチフライですらフレッシュで今カットしたばかりのポテトを揚げたてで食べている感じでした。

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船に戻り日差しに疲れたジェブは9時からの演奏のためキャビンで休養、夕食を済ませると私は一人で8時からの“Dianne Reeves with Marcus Miller featureing David Sanborn”を観にメインステージへ。実はダイアンは乗船しておらず、セント・トーマスへ飛行機でやってきてこの日の午後と夜の2公演をし、飛行機でアメリカ本土へとんぼ返りをするというスケジュールでした。彼女の歌にはスケールの大きさを感じます。彼女が歌った全5曲の中で一番印象に残ったのがMaCcoy Tynerの“You Tought My Heart To Sing”。とても美しい祈りの様な曲。昨年秋のニュージャージーでのコンサートでも歌っていたので、今一番のお気に入りなのかもしれませんね。この後直ぐジェブの演奏するCrow’s Nestへ走りました。船は予定どおり午前12時に出向し日付が変わってもジャズで溢れていました。

こんな感じにクルーズは最終日のday 7まで続きます。残念ながらこの時アメリカ東部地方にスノーストーム警報が出されており、その影響で私たちのクルーズは7日目のFreeprt, Bahamaへ寄港する事なく、day 5のSt. Croixから丸二日間海上航行しフォートラダーデールに帰港する事になりました。

day 6。この日は“Crystal Anniversary Formal Evening Dinner”が最大のイベント。シルバーかブルーの盛装というドレスコードがあり、男性はタイとジャケット着用、女性はカクテルドレス。皆さんドレスアップをしてのフォーマルダイニングです。この夜の船内はとてもエレガントでした。

そして最終日のday 7。午前中にKeyboad capersという企画コンサートがありました。若手からベテランまで出演している10数名のピアニストが持ち時間5分でソロ演奏するサンプルの様なコンサート。個々のピアニストの個性や技量、音楽性がもろに出るので、ジャズピアノファンにはたまらない企画である反面、演奏する側、特に若手ピアニストは5分でジャッジされてしまう恐れがあるので実はちょっとオーディションみたいな企画です。
そして、夜は大御所と若手入り乱れてのジャムセッションでいよいよフィナーレ。ジャズが溢れるクルーズでしたが、これを最後に音は止んでユーロダム号は一路静かにフロリダへ。

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後半はかなり割愛し、本当にざっくりジャズクルーズの模様をお伝えしてきましたが、如何でしたでしょうか。他にも沢山の楽しいハプニングやパフォーマンスがあったのですが、全ては書ききれませんでした。
青い海とジャズが大好きな方、ちょっと変わった旅をしたい方、ここからは是非ご自分で体験してみませんか?

ザ・ジャズクルーズ
https://www.thejazzcruise.com/

Holland America Line
http://www.hollandamerica.com/main/Main.action

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Kazue Patton
初めまして、NYはBrooklyn在住のJazz Vocalistです。
多摩美術大学在学中よりジャズを歌い始め、卒業後は都内及び近郊のジャズクラブを中心に活動。30代半ばに情熱のおもむくまま本場NYへ。アーティストビザ取得後、ジャズピアニストのJeb Pattonと出会い結婚、今日に至る。2013年、渡米時の思いを綴ったファーストアルバム“Dream Flight”をリリース。2014年日本ツアー、2015年韓国大邱ジャズフェスティバル出演。

ライブ活動の傍ら、初心者を対象に英語の発音に特化したジャズヴォーカルのレッスンも行う。趣味はクラシックバレエと裏千家茶道、フリーマーケット散策等。

Official site: http://kazuepatton.wix.com/jazzkaz
Facebook: https://www.facebook.com/kazue.patton
cd baby: http://www.cdbaby.com/cd/kazuepatton
iTunes: https://itunes.apple.com/us/artist/kazue-patton/id659236827

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