「南仏プロヴァンス」をこよなく愛する私が教える偏愛おすすめスポット10
私がプロヴァンスの魔法にかかったのは、2006年の初夏。ル・カストレという小さな中世の鷲ノ巣村に3ヶ月滞在したときのことでした。それまで、仕事やプライベートで世界中いろんな場所を旅しましたが、プロヴァンスは他のどことも似ていない、特別な場所でした。
「光の魔法」。ここに来たことがある人は皆、驚きます。まず、自分で撮ったと思えないくらい美しい写真が撮れていることに。画家たちがこぞってやってくるのには、ちゃんと意味があるのです。風が踊り、驚くほど透明な海が鏡のように静かに横たわり、大声でおしゃべりする陽気な人たちがいる。そして、野菜と果物とロゼワインが極上に美味しいとくれば、ただただ、日がな一日、本を読んでいるだけでも幸福であるのだけれど、この地には訪れれば訪れるほど魅了されてしまう、さらなる魔法が全土に散りばめられています。
私はここに暮らして10年目になりますが、ますます、深みにはまっている次第。こうしてデスクで原稿を書いていても、ふと窓の外に目をやると、そこには光を全身で吸収したサクランボの白い花が生命のきらめきを力いっぱい輝かせていて、その美しさに時を忘れて見入ってしまう私です。
パリからTGVでわずか3時間。プロヴァンスには、生きる喜びをいろんな形で感じられる場所がたくさんあります。今日は悩みに悩み、厳選に厳選を重ね、10まで削った私の偏愛おすすめスポットをご紹介します。
①セナンク修道院 Abbaye de Sénanque
コルビュジェなど現代建築家に多大な影響を与えた12世紀初頭に創設された修道院。ラベンダー畑で有名だが、ラベンダーが咲いていなくてもぜひ訪れてほしい場所。装飾を排した簡素な教会の内部には、教会が腐敗した時代、もっと本質的な祈りの生活をと理想を追求したシトー会の人々の熱い思いが宿っている。この教会のなかで、刻々と移りゆく光と影を見ているだけで浄化されていくよう。
②ル・カストレ村 Le Castellet
私にフランス移住を決意させた、運命の村。丘の上に築かれた中世の“鷲ノ巣村”のひとつです。頂上には12世紀の教会と15世紀の城。城壁のへりの石のベンチに座って、刻々と変わる景色を何時間でも眺めていたくなる場所。眺めのいいレストラン「ピエ・ド・ネ」やグリル料理が美味しい「ラ・ファリグル」でランチをして、夕方は村人と一緒に「ラスコー」でアペリティフ。問題は、この村に何日か滞在したら、日常に戻れなくなる危険性があるってことです。
③ベンドール島 L’île de Bendor
バンドルの港から船でわずか5分。しかし、そこにはまごうことなき島の風が吹いています。唯一のホテル「ル・デロス」はプールあり、美しいプライベートビーチあり、レストランも美味しく、超混雑しているビーチと違って、大人の静かなリゾートが満喫できる。夏のプロヴァンスの裏技。日帰りでも充分行けますが、泊まって初めてわかるよさがあります。
④ヴァランソル高原 Plateau de Valensole
一生に一度は、夏のヴァランソル高原へ。行けども行けども続くラベンダー畑とひまわり畑、その向こうには真っ青なサント・クロワ湖。この景色の中に入り込む幸福感といったら。湖に面した小さな村で涼やかなランチをするのも夏の私のお気に入り行動パターン(南仏の海辺はとてつもなく混んでいるが、ここはいつも静か)。
⑤リル・シュル・ラ・ソルグ L’isle sur la Sorgue
運河が流れ、昔の水車が今もくるくると回るかわいい町。毎週日曜日に運河沿いでアンティーク市があるのも楽しみ。フォンテーヌ・ヴォークルーズから湧き出る清流で気持ちよさそうに泳ぐカモや白鳥、生き生きとした美しい水草……。五感で心地よさを感じられる最高に素敵な町です。
⑥ルート・デ・クレット Route des crêtes Cassis
ヨーロッパで一番高いと言われる「断崖道路」。ガードレールもないので風の強い日はクローズします。いちばん高い場所から望む地中海と眼下のカシの港は一生忘れられない景色になること請け合いです。私は凹んだ時には、海と大地のエネルギーをもらいにここへ来ます。
⑦リュベロンの村 Luberon
大ベストセラー『南仏プロヴァンスの12ヶ月』の舞台となったリュベロン地方には、個性豊かな小さな村が点在しています。石積みのゴルド、オークルの赤が鮮やかなルシヨン、小洒落た店やカフェが並ぶルールマラン……。「フランスでもっとも美しい村」がいくつもあり、四季それぞれに美しい表情を見せてくれます。どの村も好きですが、上記ベストセラー本にも登場したモーリスさんのレストラン「オーベルジュ・ド・ラ・ルーブ」は私にとってのThe Provence !
⑧サント・ヴィクトワール山 Sainte-Victoire
エクス・アン・プロヴァンス生まれの画家セザンヌが生涯をかけて描いた、世界でもっとも有名な絵画のモチーフ。エクスの中心から車に乗れば、たった15分でこの山の麓まで行けます。私はリフレッシュしたい時は、この山のラクチンコースを散歩するのが常。もっと疲れた時には、山にいちばん近い小さなホテル「Le Relais de Saint de Ser」(写真)に泊まって、山の懐に包まれてぐっすり眠ります。私にとっての聖域。
⑨ポン・デュ・ガール Pont du Gard
5ユーロ札にも印刷されている、世界遺産。紀元1世紀に古代ローマ人がわずか5年で建設したという、世界でもっとも高い水道橋(高さ49m)です。5世紀半の間、毎日3500万リットルの水をニーム(古代ローマの植民地、当時の人口は約2万人)へ運んでいたというこの橋は、たぶん想像をはるかに超えるスケール。樹齢1000年というオリーブの巨木もあり、はてしなく続く時の流れと人類の英知が実感できる貴重な場所。
⑩カマルグ Camargue
ここに来ると、野鳥と白馬の王国にこっそり紛れ込んだような不思議な気持ちになります。ローヌ川が地中海に注ぎ込まれるこのデルタ地帯は地方公園の指定を受け、豊かな生態系が守られています。優雅に歩くピンク・フラミンゴ、その向こうには、静かに草を食む白いカマルグ馬や黒い雄牛。平和をしみじみ感じるすばらしい場所なのです。
《番外》キャリエール・ド・ルミエール
Carrières de Lumières
元石切場の壁に絵画の映像を映し出す、プロジェクション・マッピング。とても詩的で、年齢問わず誰にでも楽しめる絵画と音楽のショー。美術館とはひと味ちがった絵画鑑賞が楽しめます。レ・ボー・ド・プロヴァンス村の麓。2017年1月までのテーマは「シャガール」と「不思議な国のアリス」。
◉簡単おうちフレンチレシピ
プロヴァンスの一皿「アイオリ」!
本場はマスタードを入れないが、ここでは簡単なマスタード入りをご紹介します
<材料>
卵黄 1個分
ニンニク 小1かけ
マスタード 小さじ1
植物油(ひまわり油など)150ml
オリーブオイル 50ml
塩、コショウ 少々
野菜はお好みのもの(ジャガイモ、ニンジン、ブロッコリー、カリフラワーなど)
魚(タラなどの淡白な白身魚)、固ゆで卵
①野菜を固いものから順に蒸しておく
②卵黄をボールに入れ、すりおろしたニンニク、マスタード、塩、コショウを加える
③植物油、オリーブオイルの順に加えて撹拌するが、ポイントは、最初は、油を少しずつ垂らしながら撹拌すること。ミキサーがあると便利。ボールをひっくり返してもびくともしない位の硬さが目安
④最後に魚を蒸す
⑤皿に野菜、魚、ゆで卵、アイオリソースを並べる
町田陽子 Yoko MACHIDA
南フランス在住
エディター。執筆
2017年1月に著書『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』(講談社)を刊行。
7月にガイドエッセイ『プロヴァンス(仮)』(イカロス出版)を刊行予定。
「南仏プロヴァンスの旅アラカルト」主宰
シャンブルドット「Villa Montrose」(ヴィラ・モンローズ/フランス版民宿)を営み、元料理人のダヴィッドが日本語で観光チャーターや料理教室、ターブルドットを担当しています。毎年3月開催の阪急うめだ本店「フランスフェア」をコーディネイト。
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