ベルリン在住の絵本作家たなか鮎子さんから学ぶ「アートで生計を立てていく」ためのヒント
「女性目線のベルリン」をお届けする本連載。今回は、最近イギリスからベルリンへ移住した絵本作家/イラストレーターのたなか鮎子さんに登場していただきました。海外で、そしてアートという好きなことで活躍する鮎子さんは今ベルリンでどんな日常を過ごしているのか?そして、どうやって現在のライフスタイルを実現することができたのかについてお話を聞きました。海外で、自分の好きなことで生活したいと考えている方へのヒントになれば幸いです。
たなか鮎子
絵本作家、イラストレーター。ピコグラフィカパブリッシング&デザイン(SayulaTechnology Japan株式会社内)主宰。
1972年福岡県生まれ、宮城県に育つ。ベルリン在住。ロンドン芸術大学チェルシー校大学院修了。デザイン会社勤務を経て、個展を中心に活動中。2000年ボローニャ国際児童図書展の絵本原画展入選。
おもな絵本に『かいぶつトロルのまほうのおしろ』(アリス館刊)、『フィオーラとふこうのまじょ』(講談社刊)、『うらしまたろう』(文/令状ヒロ子 講談社刊)、『マルーシカと12の月』(文/かんのゆうこ 講談社刊)など。書籍装画に『1リットルの涙』『数学ガール』『幼子にきかせたい おやすみまえの365話』など。
絵本作家になるまで「徐々にシフト」していった進路
筆者:鮎子さんはボローニャ国際児童図書展へ入選されるなど精力的に活動されていますが、今のフリーランスの絵本作家/イラストレーターになるまでは、一体どんな経緯だったのですか?最近までイギリスの大学院でアートの勉強をされていたそうですが、もともと4年間イギリスの大学に行っていたのですか?
鮎子さん:いえ、イギリスへ留学したのは40歳を過ぎてからです。日本ではアート系ではなくて、経済学部を卒業したんです。経済学部だったので、銀行等に就活したんですがあまりのギャップに「あれ?」って思ったんです。すぐにアート系に行く決断はできなかったので、就職してしばらく考えながら準備を進め、気が変わらなかったらアート系の専門学校に行ってみようと思ったんです。
筆者:経済学部ってなんだか意外です。最初からアート系だったわけではないのですね。
鮎子さん:はい、それで専門学校に行ってやっぱりアート系がいいと思ったので卒業後はデザイン会社に就職しました。でも、そこでの労働環境が本当にキツくて。定時が12時とかだったんです。
筆者:え!定時が12時!?信じられない・・・
鮎子さん:まぁ、「好きなことやっているんだからいいでしょ?」っていうことですよね〜・・・なので、そこは1年くらいで辞めて、違うデザイン会社へ転職して4〜5年勤めました。それから、結婚するタイミングくらいで独立して10年以上フリーランスのイラストレーターとして働いてから2〜3年前にイギリスへ留学したんです。
筆者:なるほど〜。自分のやりたいことに向かって徐々に方向性をシフトしていったんですね。
アーティストとしての自分をもっと知るため、もっと自分を伝えるため大学院へ
筆者:鮎子さんはイギリスの大学院で「グラフィックデザイン科」に入ったということですが、それはデジタルで描くことを学ぶためだったのですか?
鮎子さん:いえ、違います。学びたかったのは実技じゃなくて「絵の考え方」ですね。ず〜っと仕事で絵を描いていましたが絵の考え方を知らないと、人に自分の作品を伝えるときに伝わり方が浅いと感じていて。もう少し自分のことも知らなきゃいけないし、それを伝えるためのロジックを知りたかったんです。一人のアーティストとして、人にアプローチする方法を学びたかったというのが一番ですね。
筆者:そうなんですね。それってすごく大切なことですよね。私事ですが、私もアート関連の翻訳で日本人のアーティスト・ステートメントを英語に翻訳することがあるのですがコンセプトを伝えるんじゃなくて、「ポエム」になっていることが多いんです。
鮎子さん:それがアーティストだ、アートだ、と思っている人もいますよね。そういうやり方でうまくいっている人もいますが。
筆者:イギリス・ロンドンを留学先に選んだのには何か理由があるんですか?
鮎子さん:私、もともとはドイツに行きたかったんですよ!
筆者:あ、そうなんですか!
鮎子さん:はい。実は5歳と6歳のときにドイツに住んでいて、幼稚園と小学校をやってすっごく楽しかったんです。でもいきなりドイツ語を勉強するのはハードルが高いから、ロンドンなら英語で生活できるし、建物も伝統があって私の絵の世界観と近いのでまずはイギリスへ行くことを決めたんです。
筆者:そうだったんですね〜。
ベルリンでの生活について
筆者:そうして今、ベルリンに引っ越して来てどうでしょうか?ベルリンは鮎子さんにとって絵のインスピレーションを得られたり、制作に集中できる環境でしょうか?
鮎子さん:そうですね〜。私は建築が好きなんですけど、正直ロンドンの方が建物に関しては歴史や伝統が残っていて圧倒されるものがあります。ベルリンは、残念ながらそういう建物が戦争でなくなってしまった場所なので。
でも、人があったかいと思います。両方良いところがあるんですが、ロンドンは「祭り」という感じなんですよね。いろんなことがあるから常に高揚しているような感じ。言うならば、頭に栄養をもらえる場所です。ベルリンは体が喜んでいる感じがします。もっと広くて人も少ないし落ち着いているから、制作にはすごく集中できるからです。そして、今の家もすごくお気に入りで仕事がしやすいです。
筆者:本当に素敵なお部屋ですよね。鮎子さんのこだわりが見えます。1日はどんなふうにして過ごしているんですか?
鮎子さん:自宅での作業が多い仕事なので、なるべく外に出るように心がけています。朝起きて、午前中は必ずカフェに行くようにしています。カフェで書き物などの作業を中心にやって、自宅に戻って昼食を食べてからまた仕事に戻ります。仕事終わりの晩酌を毎日楽しみにしているんです。(笑)
筆者:じゃあドイツはビールがおいしいし、最高ですね!
アートを仕事にしたい人へのアドバイス〜チャンスを掴むためには?
筆者:海外で、やりたいことで生活するという誰もが憧れる素敵なライフスタイルを実現されている鮎子さんですが、同じようにアートで生活したい、挑戦したいと思っている方々へまずは何をしたら良いかというアドバイスなどいただけますか?
鮎子さん:そうですね〜。今はもう違うかもしれないのですが、出版に関して言えば私がフリーランスになった時はやっぱり就職していたことが大きかったです。そのツテで仕事がもらえたりしたので。ただ、絵本の仕事はまったく違うところから来たんです。自分の作品を上げていたウェブサイトから、作家の方がキーワードで検索して私を見つけてくれたのが始まりでした。だから、くもの巣を張るというか自分のことを調べてくれる人がいたときに自分の情報がちゃんと分かる場所を作っておくというのは大切ですね。その上で積極的に活動していけばきっとチャンスがやってくるのではと思います。
筆者:それはアーティストだけでなくいろんな活動をする人に共通して大切なことですよね。アートで勝負するって遠い話のように思っていましたが、鮎子さんからお話を聞けてもっとリアルにイメージできました。今日はありがとうございました!
【おまけ】鮎子さんから教えてもらった、アーティストを目指す人のためのお役立ちリンク。
■BOLOGNA CHILDREN’S BOOK FAIR
http://www.bookfair.bolognafiere.it/en/the-best-venue-for-childrens-publishers-to-meet/878.html
子どもの本のイラストレーターを目指す絵描きさんの国際コンペがあります。フェア中は、出版社さんのブースのイラストの持ち込みなども可能です。日本では、板橋美術館が窓口になっているので、併せてご覧ください。
■板橋美術館 ボローニャ国際絵本原画展リンク
http://www.itabashiartmuseum.jp/art-2013/bologna/index.html
■Lynda.com
デジタルでイラストレーションをやりたい人や、ポートフォリオの作り方を知りたい人など世界のクリエイター向けに、数万以上の講座が準備されています(有料、無料両方あります)。日本語版も出ていますが、英語版の方が断然内容が充実しています。
http://www.lynda.com/
■ORDINARY インタビュー
「きのう読んだ物語を話すような社会に」
http://ordinary.co.jp/people/2223/
2014年獨協大学を卒業後フリーランスのライター・翻訳家としてドイツ・ベルリンを拠点に活動中。ブログ「WSBI」ではより詳しいワーホリ関連情報とフリーランス関連情報を発信中!ドイツで見つけた日本文化を紹介するTadaimaJapanでの連載、「ドイツで日本発見!」もお見逃しなく!