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「The Jazz Cruise」カリブ海の船上ジャズフェスティバル(前編)

Kazue Patton

日本ではあまり馴染みのないクルーズ旅行ですが、欧米ではポピュラーなレジャーの一つ。デッキにはプールやジャクジー、船内には様々なスタイルのレストランやバー、カフェ、スパ、美容室、ジム、図書室、カジノやライブステージ、大規模なシアター等の娯楽施設が揃い、コメディーショー、ミュージカルショー、ライブコンサートが毎晩繰り広げられ、もちろん医師のいる診療所もあります。さながら海に浮かぶ娯楽都市そのもの。

昔のハリウッド映画を観ると豪華客船の旅は優雅の一言に尽きます。タキシードにイブニングガウンの紳士淑女がダイニングテーブルに案内されるシーン等が印象に残っています。正真正銘お金持ちだけに許された世界でしたが、人々の移動手段としての役目を飛行機に譲った今、船旅は子供からお年寄りまでが一緒に楽しめるファミリー向けのレジャーです。最近では船のデザインからエンターテイメントまで全てがディズニーのDisneyクルーズ、ケーブルチャンネルのFood Networkとコラボレートした有名シェフによるクッキングショーとグルメ三昧のクルーズ等、特定のエンターテイメントだけに特化したクルーズも出てきている程。

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前置きが長くなりましたが、多種多様なエンターテイメントクルーズの中で、ジャズクルーズというのがあるのをご存知ですか?数々のプロダクションがある中でも規模の大きなクルーズが“The Jazz Cruise”です。Entertainment Cruise Productionsが企画、Holland America Lineが毎年1月に一週間のカリブ海クルーズとして提供しています。こちらのプロダクションには他にもゴスペル、スムースジャズ、変わったところではスタートレックなんて言うのもあります。今年はピアニストである主人のJeb PattonもCharles McPhersonのグループで久々に出演したので、私にとっては3度目となる“The Jazz Cruise 2016”へ行ってきました。今回は7日間のジャズクルーズの魅力をざっくりと前編・後編に分けてご案内します。

ザ・ジャズクルーズ
https://www.thejazzcruise.com/

Holland America Line
http://www.hollandamerica.com/main/Main.action

出発港はいつもフロリダのフォート・ラダーデール(FT Lauderdale)ですが毎年コースが異なります。以下は今回の旅程。
1/17 (Sun) フォート・ラダーデール出港
1/18 (Mon) 海上航行
1/19 (Tue) ドミニカン・リパブリック、アンバー・コウヴ(Amber Cove, Dominican Republic)
1/20 (Wed) U.S.ヴァージンアイランド、セント・トーマス(ST. Thomas, U.S.V.I.)
1/21 (Thu) U.S.ヴァージンアイランド、セント・クロイス(ST. Croix, U.S.V.I.)
1/22 (Fri) 海上航行
1/23 (Sat) バハマ、フリーポート(Freeport, Bahamas)
1/24 (Sun) フォート・ラダーデール帰港

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今年は記念すべき15周年ということで、ラインナップにはジャズヴォーカル界の双頭、Dee Dee BridgewaterとDianne Reevesの二人が揃うという豪華版。二人の大ファンの私としては、とても得した気分。他に日本のジャズ通にお馴染みの超一流どころ、Kenny Barron (P), Freddy Cole (Vo & P), Charles McPherson (As), Jeff Hamilton (Ds), Marcus Miller (B), John Pizzarelli (Vo & G), Randy Brecker (Tp), David Sanborn (As)他にも若手からヴェテランまでトリオやコンボ等のグループ、そしてNYの老舗ジャズクラブVillage Vanguardマンデーナイトオーケストラのレギュラーメンバーを中心に編成されたビッグバンドも参加。乗船するジャズミュージシャンだけでも総勢80名程にはなっていたでしょう。

これだけのミュージシャンが勢ぞろいする一週間の船旅は、ジャズファンには夢の様。彼らの演奏を堪能するだけでなく、カフェテリアで一緒になったり、プールサイドのバーでカクテルを飲んだり、寄港する島々でのアクティビティーに一緒に参加したり、写真を撮ったり、サインをもらったり交流も可能。しかも夜中の2時半に終わる演奏を最後まで聴いても、終電の心配ご無用。キャビンに歩いて戻るだけです。また、ジャズ全盛期のファンは今や年配の方が殆どですが、足の不自由なご年配の方でも船内用電動車椅子を利用して、絨毯敷きの廊下を横移動、エレベーターで縦移動、船内をあちらのライブシアターから、こちらのコンサートホールへと自由気ままに滑らかに移動可能。ですから、アメリカ全土は元より、ヨーロッパから参加されるシニアジャズファンで毎年ソールドアウトです。また、船内にはゲスト用に朝から晩まで解放されているジャムセッションルームも用意され、そこに一流のプロがセッションリーダーとして参加する日も設けてあるので、中には演奏交流目的に楽器持参で参加するアマチュアミュージシャンや、自国や地元でプロ活動しているミュージシャンもいます。

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出演するミュージシャンは通常前日にフォート・ラダーデール入りし、プロダクションが用意するホテルに宿伯。なんと出発の朝目覚めると、ホテルの窓の外は横殴りの暴風雨。テレビではハリケーン上陸で、フロリダ半島の西側(フォート・ラダーデールは東側)での深刻な被害が報道されていました。不安がよぎりましたが、ホテルから港に移動する午前9時頃には空にはまだ厚い雲が垂れ込めてはいたものの、雨も風も嘘の様に止みました。

ホランド・アメリカのドックで出国審査とチェックインを済ませ乗船。今年の船はユーロダム号(Eurodam)、11階建ての超巨大ホテルという感じです。大きなスーツケースや楽器等の荷物はホテルを出た時から私たちの手を離れ、船会社が各自のキャビンに直接運んでくれます。もちろん部屋番号のタグをつけておくのですが、間違えることが無いのでいつも感心します。チェックインする際にキャビンのカードキーと個人のクレジットカードをリンクさせます。このカードキーが船内ではお財布代わり。ブティックでのお買い物や美容室、クルーズ料金に含まれないお酒や、特定のレストランでの食事(ビュッフェレストランでの食事やドリンクは料金の内なので食べ放題&飲み放題。)また、寄港地でのアクティビティーの参加費の支払いに使います。

さて、気になるキャビンはというと、シングル、ダブル、スイートと一般のホテルと全く同じです。大きいサイズのお部屋になるほど、上階になりバルコニー付きオーシャンビューで眺めも最高。私たちの部屋はバルコニー無しのダブルルームですが、ビジネスホテルの様な感じです。違うのは、棚やテーブル縁に必ず落下防止用のバーがついている事。バスルームのグラスやゴミ箱もホルダーにセットされています。お部屋の世話をしてくれるスチュワードが、毎晩かわいい動物のタオルアレンジメントで楽しませてくれます。でそうそう、テレビでは貴重な昔のジャズ番組やドキュメンタリーのビデオが朝から晩まで毎日違うテーマで放送されます。これもジャズクルーズならではのエンターテイメントの一つです。

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キャビンを確認したらまずカフェテリアで遅いランチをとり、規則のドリル(避難訓練)の時間を待ちます。これは船に乗船しているゲストもクルーも、全員参加が義務づけられています。これ無しに船は出航できません。予定された時刻にサイレンが響き渡りキャプテン自らの船内放送、全員が3階の避難用のデッキに集合。キャビン番号ごとに避難ボートか割り当てられており、各々の避難ボートの下に集合、点呼、そしてライフジャケットのデモンストレーションを受けます。写真ではわかりにくいですが、頭の上に見えるのが避難ボートのスクリュー。ボートは頭上に吊るされており、ちょうど4階のキャビンの窓の外にズラーッと並んでいます。

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準備万端整い午後4時ユーロダム出航。ストームの影響で、さすがのフロリダも天気が悪くてデッキでは肌寒く感じます。そろそろ陸も遥か彼方に細くなり、日も落ちていきます。海が荒れないことだけを願いながら、さあ、Day 1のジャズライブのハシゴの始まりです。さて、どの会場へ行こうか?どのタイミングでディナーに行こうか、タイムテーブルと暫しにらめっこ。(後編へ続く)

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