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Silence Speaks ニューヨークの話してはいけないアンダーグラウンドなイベント

Ayaka Nishi

言葉というのは便利であり、不便でもある。

言葉を交わすことで、理解したような気がしたり、仲良くなれたような気がしたり、繋がったりしたりできる。しかし、一方で言葉を交わすことで出来る壁というのもある。コミュニケーションの行き違い、言葉の壁、言葉を交わしお互いの背景を知る事で生まれる壁、既に言葉を交わす事で生まれたコミュニティーに入っていく壁。
言葉が逆に邪魔な存在になる事を感じる場面は多々ある。

様々な言語が飛び交う人種の坩堝であるNew Yorkにいると、コミュニケーションについて自然と考えさせられる事が多い。それは私が外国人であり英語がネイティヴではないので、New Yorkにきて9年たった今でも細かい言葉のニュアンスや専門的な会話などで英語の壁を感じた時にふとコミュニケーションの難しさを感じるからだろう。

そして、都会の忙しいペースの中で、多くの人と関わる機会が多い中、言葉を多く交わしていたとしても、ちゃんと心の通じるコミュニケーションを自分はどれだけできているだろうかと思ったりもする。
人と会話をすることが多くなると、一つ一つのコミュニケーションに対し、おろそかになったり、鈍感になったりするような気がする。コミュニケーションの質についてふと考えたりする。NYに限らず、都会に住んでいる人なら誰でも感じる事かもしれない。

私の友達で、コミュニケーションのあり方について考えさせられるとても面白いアンダーグラウンドなイベントを定期的に開催している人達がいる。

Silence Speaksというイベントで、会場で一切言葉を交わさない、話してはいけないというイベントだ。
このイベントは2人の日本人女性と1人のアメリカ人男性の3人が中心になって企画しており、マンハッタンのダウンタウンエリアで不定期で開催されている。
今まで会場は、ギャラリーだったり、アーティスト個人のアトリエだったり、Barだったり、East Villageの公共ガーデンだったり、ミュージアムだったりと様々な場所で開催されてきた。

毎回イベントの場所によって、空間が変わってくるのでイベントの仕様も若干変わってくるのだが、大抵イベントの会場に入ると、入り口で「このイベントでは会場で話してはいけません」と書いてあるサインボードを見せられ、OKとジェスチャーで同意して奥に入る。会場の奥では、様々な楽器が置いてあり自由に手に取って演奏することができる。テーブルの上にはクラフトの材料(スケッチブック、ノート、絵の具、絵の具、はさみ、ワイヤー、折り紙など)が並べられており好きに絵を描いたり、折り紙を折ったり、ワイヤーを使って、自由に色々作って良い事になっている。

イーストビレッジの公共の公園で開催された時の様子。ゲストアーティストがサイレンスワークショップを開催することも。

イーストビレッジの公共の公園で開催された時の様子。ゲストアーティストがサイレンスワークショップを開催することも。

薄暗い会場には、プロジェクターで不思議な映像が写し出されていたり、水がはってある透明の容器にインクやオイルを加えて、不思議な色や模様を作り、プロジェクターの光を通してそれを壁に映し出したりしている。光の反射を楽しんで遊べるように、鏡なども置いてある。

プロジェクターの光に透けるオイルが浮かぶ水とインク。独特な怪しげなアンダーグラウンドな世界を醸し出している。

プロジェクターの光に透けるオイルが浮かぶ水とインク。独特な怪しげなアンダーグラウンドな世界を醸し出している。

言葉を交わしてはいけないという事など忘れてしまう程、会場には沢山の五感に訴えてくる面白いおもちゃが準備されているという感じで、このイベントに来ると、まるで、幼稚園に来た子供のような気持ちになる。オトナの幼稚園とでもいうべき空間かもしれない。

会場ではみんなあえて不思議な恰好をしている人が多い。非日常を体験するという場になっている。

会場ではみんなあえて不思議な恰好をしている人が多い。非日常を体験するという場になっている。

Silence Speaksという名前ではあるが、会場は、話してはいないものの全くのサイレンスというわけでもなく、常に数人ががそこに置いてある楽器で音を鳴らしているので、何かしらの音が生まれ、楽器を演奏しているうちに、独特のビートやグルーヴが生まれてくる。ここに置いてある楽器は基本的に弦楽器や管楽器などではなく、叩いたり振れば音が出るような特にテクニックがなくても音が出せるようなものばかりが置いてある。

プロのゲストミュージシャンが演奏している事も。実は結構実力派のミュージシャンも参加している。音楽をやっている人には特に音だけで交流するという面白い空間に感じるかもしれない。

プロのゲストミュージシャンが演奏している事も。実は結構実力派のミュージシャンも参加している。音楽をやっている人には特に音だけで交流するという面白い空間に感じるかもしれない。

奥の部屋にはアロマセラピーのブースや霊気ヒーリングのブースがあったりする。

奥の部屋にはアロマセラピーのブースや霊気ヒーリングのブースがあったりする。

言葉を交わさず、聴覚、嗅覚、視覚、触覚など別の感覚を解放し、そこから生まれ言葉以外のコミュニケーションを楽しむという目的の空間である。

会場では、みんな自由に踊ったり、体を動かして表現している。言葉を交わさないという事がこんなにも自分を解放して自由な気持ちになれるのだと気づかされる。

会場では、みんな自由に踊ったり、体を動かして表現している。言葉を交わさないという事がこんなにも自分を解放して自由な気持ちになれるのだと気づかされる。

私は最初にこのイベントに行った時は、あまりにも独特な雰囲気なイベントにどう振る舞えばいいのかと一瞬戸惑った。一見、怪しげなアンダーグラウンドなドラッグパーティの様にも見えるので、最初に来た人の中には、この空間にひいてしまう人もいるかもしれない。(笑)。でも、実際は、親子連れで参加している人もいるくらいで、割と健全なイベントだ。会場で話してはいけないというルール以外には、大したルールもない自由なイベントなので、好きに楽しめば良いのだと理解してからは、とても開放的になれるイベントで私はとても気に入っており、常連となっている。いつも行くと前のイベントで見たことがある人がいるのに、会話を交わしたことがないから、社会的にどういう人が良くわからない・・・というのも、面白い関係だと思う。

競争の激しいスピードの速い街、New Yorkにいると、いつも忙しいので、いかに効率良く物事をすすめていくかについて考えがちである。しかし、私がこのイベントで折り紙を折ったり、絵を描いたり、太鼓をたたく行為は、全く生産性という点では私の生活に関係ない、ある意味無駄な行為である。しかし、その一見無駄である行為を黙々とやる事の解放感というのがとても心地よく、私の中ではデトックス作用として働いているように思える。

因みに、私は2回ほどサイレンス・ジュエリーワークショップという形でもこのイベントに関わらせてもらった。言葉を交わさず、身振り手振りで説明をしながらジュエリーを制作するというワークショップだった。材料はリサイクルマテリアルや自然の素材(木の枝や木の実など)で、それらを使って、みんな見様見真似で自由にジュエリーを制作した。黙々と自分のアイデアや発想からジュエリーを作り、それをイベント会場で身に着けるという楽しさ。言葉を交わさずともシンプルな喜びを共有できる事で充実した気持ちになれた。

サイレンスジュエリーワークショップの様子。言葉で説明できないので、サンプルを見せて、身振り手振りで説明する。

サイレンスジュエリーワークショップの様子。言葉で説明できないので、サンプルを見せて、身振り手振りで説明する。

言葉で何かをクリアに言われるよりも言葉のないコミュニケーション(視覚的なものだったり、触覚、音など)で、より強く印象的に伝わるというのはよくある。恋愛においても、下手に恋愛の感情を言葉で伝えるよりも、目や行動で伝える方がセクシーだと思うし、インパクトがあるし、より伝わってくる。映画のワンシーンも余計なセリフがない方が気持ちがより伝わったりする事もある。

今回、このイベントの主催者の2人に、コンセプトを改めて聞いてみたいと思い、インタビューしてみた。


Q1.Silence Speaksの活動内容を教えてください。

A: ニューヨークのアンダーグラウンドで、言語を使わずにインタラクトする移動型実験イベントを2013年から、毎回会場を変えながら開いています。サイレンスと言っても、言葉を話さないだけであって、音を立てて踊ったり、絵を描いたりと、言語以外の表現は全部ありです。インタラクトがコンセプトなので、言葉に頼らない、もっと直感的なところでの人との交流が出来ます。

Q2.なぜはじめようと思ったのですか?

M: メディテーションリトリートなどで、言語を使わない左脳のリラックスした状態を経験した時、“ここ”と“今”の中で自由になって行く右脳でのふれあいが、印象的だったのです。リトリートのメインの目的は自己、内的な探求なのですが、それがベースで人と接しているのが、“本当”の感じがし、この形態をもっとインタラクト系、もっとあそび感覚に持って行けないかと、思ったからです。

Q3.あなたが思うサイレンスの面白さとは?

M: 五感の中に身を浸すことができ、観察力が増し、能動と受動のバランスが取れていくところ。世界中どころか、宇宙中共通なので、地球外生物が来ても共有できる。(笑)

Q4.Silence Speakにはどんな人が来ますか?

A: ニューヨークならではという、人種、年齢、様々なタイプの人たちが来ます。
普段アート系でない人たちが、サイレンスのコンセプトを理解したときの、解放された表現力は、正に「みんなアーティスト」と自覚するようです。

Q5.どのようにして活動場所を選んでいますか?(どういったところを選んでいますか?会場を選ぶ上でのポイント。)

A: シンクロニシティを信じているので、毎回、その時々の流れを重視しています。ふとした友人からの紹介、普段のたわいもない会話からインスピレーションを得て選んでいます。現代アート美術館のニュー・ミュージアムで参加させていただいた時も、知り合いの紹介から招待されることになりました。地元のバーから、アートギャラリー、野外の公園まで、毎回、違った場所を提供できる様に心がけています。

Q6.Silence Speaksを続けていく上で、面白いところ

M: 通常では自己表現の苦手な人たちが、解放されていくのを見るのは、とても楽しいです。これがきっかけでできたカップルが何組かいるなど、普段とは違う繋がり方を提供していると実感する時は最高です。

Q7.Silence Speakを続けていく上で、Challengingなところ

A: コミュニティとシンクロニシティを重視いているため、直感的にスペースやゲストを選び、オーガニックにイベントを成り立たせるところ。

Q8.今までどのようなパフォーマーが関わってきましたか?

A M: ゲストミュージシャンとしては、ララジ、ダニエル・カーター、エリオット・レバンなど、フリージャズや、アンビエントシーンで第一線で活躍するミュージシャンから、地下鉄で演奏している時に出会った、カメルーンのバラフォン奏者まで、パフォーマーとしては、ニューヨークアンダーグラウンドで活躍するダンサー、アーティストから、旅行で海外などから訪れているアーティストまで、即興的にその時に合った、多才な方々が参加してくれました。

Q9.オーガナイズしているメンバーの簡単な経歴

M: ネオタントラ/セクシャルヨガ講師として、教育活動を行いながら、ミュージシャンとして、ブルーノート、CBGB等の老舗に出演。ジョアンオズボーン、バシリジョンソン(マイケルジャクソンのPerc.)等とも競演している。

A: マルチアーティスト。現在は東洋医学センターでアシスタントとして働きながら、ジョークラウゼルのレコードレーベルで、アート、ビジュアルも担当。

FH: 八卦掌の講師として活躍しながら、ミュージシャン、DJとしてレゲエ界の巨匠達をゲストにDUBアルバムを制作したり、NYアンダーグラウンドオペラなどに、携わっている。

Q10.今後の活動予定は?

A: ニューヨーク以外でも活動したいので、ただ今東海岸の他の都市(フィラデルフィア等)や、今春は、東京なども検討中です。(関東地区の方、3月頃にFacebookページをぜひチェックして下さい!)

Q11.Silence Speakとは一言でいうとなんですか?

M: 『。。。。。』

Q12.今後どのように活動していきたいと思っていますか?

A: 原始的なコンセプトですが、現代に当てはめてみると、意外に斬新なテーマだと思います。規制の観念に雁字搦めになっている脳を、マッサージしてあげる、その解放が最終的には、コミュニティの向上(波動数の上昇)につながると信じています。同じような意識の人たちとつながって、サイレンスが生み出す平和を、分かち合っていきたいと思っています。


矢野顕子の「クリームシチュー」という歌に「言葉なんていらない床にこぼれるだけ。」という歌詞がある。
そして、サンテグ・ジュペリの星の王子さまに「大切なものは、目に見えない」という有名な言葉があるように、大切なことは、言葉にできないのかもしれない。

Silence Speakのイベントは不定期で開催されており、Facebookを通じて告知される。興味のある方は是非こちらをチェック。
Silence SpeaksのFacebookのページ
https://www.facebook.com/SILeNCe-SPeAKs-155016471327459/

4月には初めて東京でもやろうという動きがあるという事でとても楽しみだ。私も4月に日本に帰国する予定なので、タイミングが合えば参加したいなと思っている。

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