いいも悪いも「寛容の国フランス」のこども事情
小さなお子さま連れのお客さまから、「子どもがいっしょでも断られないレストランはありますか?」と質問されることがありますが、結論からいえば、フランスではどんなレストランでも基本的には子どもOKです。子ども用メニューもちゃんと用意されています。
しかし、レストランは子どもたちにとって、決して天国ではありません。食前酒から前菜、メイン料理(場合によっては2品)、チーズ、デセール、食後酒まで、延々2時間、3時間もの大人の食事にじっと付き合わされる忍耐の場なのです。たいくつそうにしている子どもを気にかけて早々に店をあとにする大人は皆無。美味しい料理やワインに舌鼓をうち、友人とのおしゃべりに熱中し、子どもが眠そうな仕草をしようものなら、「しっかり起きてなさい」と叱りつけます。大人のエゴといえばそういえるかもしれませんが、同時にこれはレストランでのマナーの特訓でもあり、子どもが「行きたくない」「早く帰りたい」と意見できる余地はありません。
よくもまぁ、子どもたちはおとなしく大人に付き合ってるものだと感心してしまいますが、とにもかくにも、しつけは最初が肝心。ある日、友人夫婦とその2歳の子どもといっしょにレストランに行ったときのこと、父親は延々、「ここは知らない人と食事をする場だから、静かにして、みんなに迷惑をかけないように」と教え、ちょっとでもグズろうものなら、諦めることなく、繰り返し諭します。肝心なのは、ヒステリックにならず、淡々と諭す姿勢なんだなと観察。最後には疲れはて、ベビーカーの中で熟睡となりましたが、こうやって、少しずつレストランという公共の場に子どもを慣らしていくのだと知りました。子どもたちは退屈だろうが眠かろうが、なにを言っても親は聞く耳をもってはくれないと悟り、子どもだけでおとなしく時間を過ごす術を身につけていくようです。
ちなみにおうちごはんの場合は、子どもには先に食べさせて、とっとと子ども部屋に行かせます。あとは大人の時間だから、お子様は就寝というわけ。このしつけもしっかりされており(少なくとも私のまわりの友人は皆、厳しい)、人が集まっている時などはもうちょっとみんなと一緒にいたい気持ちがいっぱいであっても、聞き入れてもらえる可能性は0%だとわかっているので、しぶしぶ部屋に向かいます。いつまでもぐずぐず言っていると、だんだんパパの口調が厳しくなり、最後にはおしりペンペンが待っているのを知っているから。
では、我が家にお泊まりの日本人のお客さまがお子さんといっしょにレストランに行ったらどうなるか……。
まず最初はお試しでカジュアルなブラッセリーへ。でも、ほとんどの場合、5分ももたないでぐずり始め、父親と母親が交代で外に出てあやしたり遊んだり、でも結局、食事もろくに食べずに皆の視線を気にして、そそくさと出てしまう。「やっぱりうちの子はダメみたい」と。
しかし! 諦めずに2度目に挑戦。今度は、席に着いたら、ここがどんな場所で、パパやママはここでゆっくり食事をしたいから協力してほしい、ということを、わかっていようがわかっていまいが、コンコンと説得してもらう。大切なのは、どんなに君がグズろうが、わめこうが、パパもママも絶対に席を立ちませんよ、何が何でもここで食事を楽しみたいんですよ、君が協力してくれないと困るんですよ、という断固たる意思を明らかにすること。子どもって、そういう真剣度みたいなものは、本能的にわかるんだと思うのです。
そうすると、あら不思議、「信じられないことに、1時間以上、おとなしくしてくれて、ゆっくり食事できました!こんなの初めてです!ウエイターさんもすごくやさしくて、子どもに話しかけてくれたりしました!」となるんです。
3度目はもう余裕。ちょっと格上のレストランを予約して、デザートまで満喫できてしまう。大切なのは、レストランという場に子どもが慣れること。日本でもぜひ試してみてほしい。子どもがいても、レストランでおしゃれして食事を楽しめれば、育児ノイローゼにもならずにすむかもしれない。そうなんです。フランス人は、子どものために自分の楽しみを諦める、ということはあまりない。親がリラックスして人生を楽しんでいるから、子どももリラックス。もちろん、母親だけでなく、父親も半分、育児を担当しているのが現代のフランスカップルです(そこ、大事)。
「うちの子どもはとても無理」と嘆くなかれ。子どもを信じて、論理的にかつ、真剣に、フランス式説得法をお試しください(ただ、日本の場合、まわりのお客さんから睨まれそうで怖いかも。みなさん、優しい気持ちで見守ってあげましょうね。フランスでは、まわりの大人が子どもに寛容。皆で見守るものという気持ちが感じられます)。
先日、家のそばの通りで、こんなことがありました。
すれ違いざま、向こうから歩いてきた若いカップルのベビーカーが段差に引っかかり、その反動で、中にいた子ども(2歳くらい?)がつんのめって前に転げ落ちてしまいました。そもそもシートベルトをしていないってことにも驚きですが、その若く美しい母親が放った言葉に私は仰天しました。
たった一言、とてつもなく冷静に、
「サヴァ?(だいじょうぶ?)」。そ・れ・だ・け。
子どもはといえば、突然のことに目をぱちくり、びっくりしていたようだけど、ママンのそのクールな一言のせいなのか(パパは一言も発せず)、泣きもせず、ベビーカーの中に黙っておさまりました。ベビーカーを押していたのは夫の方でしたが、不注意を責められることもなく、3人はそのまま何事もなかったかのように、去っていきました。
私は彼らの後ろ姿を見送りながら、半ばあっけにとられながら、うーむと唸ってしまいました。ケガするような事態ではないと瞬時に判断し、騒がず、慌てず、まして叫んだりしない。その態度は「すばらしい!」と誉めたたえられるものではないかもしれませんが、親の態度がいかに子どもに影響を与えるかという、ひじょうに興味深い例でありました。
子育てにもお国柄が出るもの。フランスは子ども連れにもとても寛容な国なので、お子さん連れの旅行先としてはかなりおすすめです。子どもがいない私でさえこんなに面白く観察できるのですから、お子さんがいらっしゃる方には目から鱗が落ちまくる旅になること、保証します。
Recette
簡単おうちごはん ◉ 今月のレシピ
「レンズ豆のサラダ」
材料(4〜6人分)
乾燥レンズ豆(緑)200g
水 800ml(豆の4倍の量)
タマネギ 100g
ニンジン 100g
マスタード 大さじ1
ワインビネガー(赤でも白でもお好みで)大さじ1
オリーブオイル、植物油 各大さじ3(植物油だけでも可)
塩、コショウ 少々
<作り方>
①水を沸騰させ、レンズ豆を入れ、20〜25分ほど茹でる。豆の大きさによって茹で加減が違うので、確認しながら、食感が残る程度に茹でる。
※ロリエ、ローズマリー、タイム、野菜ブイヨンなど(あるものでOK)を加えるとレンズ豆に味や香りがついてよりおいしくなる
②湯を切り、水につけて冷まし、ぬるくなったら水をしっかり切る
③ボールにマスタードとビネガーを入れてよくかき混ぜ、少しずつオイルを足しながら泡立て器でしっかり混ぜ、ドレッシングを作る。そこにレンズ豆、みじん切りにしたタマネギとニンジン(生)を入れ、よく混ぜ合わせる。
④塩、コショウで味を整えたら、できあがり! 冷蔵庫でよく冷やして、召し上がれ
※お好みの野菜、例えばセロリやパプリカ、フェンネルなどを加えて楽しんでください
町田陽子 Yoko MACHIDA
南フランス在住
エディター。執筆
2017年1月に著書『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』(講談社)を刊行。
7月にガイドエッセイ『プロヴァンス(仮)』(イカロス出版)を刊行予定。
「南仏プロヴァンスの旅アラカルト」主宰
シャンブルドット「Villa Montrose」(ヴィラ・モンローズ/フランス版民宿)を営み、元料理人のダヴィッドが日本語で観光チャーターや料理教室、ターブルドットを担当しています。毎年3月開催の阪急うめだ本店「フランスフェア」をコーディネイト。
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