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The Brownstone Jazz : 60年代のジャズシーンを今に引き継ぐ地元密着型ジャズスポット

Kazue Patton

ニューヨークでジャズを聴きに行こうと思ったら、世界トップクラスのミュージシャンが出演するVillage VanguardやBlue Note、Dizzy’s Club、Jazz Standardといったトラベルガイドブックにも載っている老舗のジャズクラブか、ジャズ通ならば、若手が切磋琢磨するSmall’sやCleopatra’s Needle、Fat Cat等をイメージすることでしょう。さて、今回はたまたま主人のJebが二晩連続で出演したこともあって、いわゆるマンハッタンにあるメインストリームのジャズクラブではなく、ブルックリンの住宅街にあるちょっと変わったジャズスポットをご紹介します。

ジャズが最も身近な音楽だった頃のニューヨークでは、自宅にミュージシャンを呼んでのホームパーティーや、ジャムセッションを普通にしていました。特に世界恐慌前後の1920年代から1930年代のハーレムでは、アパートのレント(賃料)が支払えなくてどうにもならなかった時にジャズバンドを雇って、自宅に友人知人を大勢呼んでの大パーティを開催。そこで帽子を回して参加者からカンパを募り、家賃支払いの急場をしのぐというレントパーティーが盛んに行われました。隣近所や大家さんにしてみれば、明け方まで楽器演奏やダンス、飲酒に喫煙で大騒ぎしているわけですから迷惑な話なのですけど、家賃を滞納されるよりはまだましですから、相身互い、とても大らかな時代だったようです。

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今回ご紹介するThe Brownstone Jazzは、ブルックリンのCrown Hightsにほど近いBedford-Stuyvesant(ベッドフォード・スタイバサント)にあるSankofa Aban Bed and Breakfastの一階のパーラーで毎週末開催されているライブイベントです。NYの音楽シーンでブルックリンと言えば今やhip-hopの中心地というイメージですが、hip-hopが生まれる以前の60年代にはマンハッタンに引けを取らないほどジャズクラブがあり、そのほとんどがこのベッドフォード・スタイバサントに集中していました。当時のローカルなジャズシーンを今に残す活動を地道に続けているThe Brownstone Jazzはアメリカのテレビ局NBCやNew York Timesでも取りあげられました。

この界隈は歴史的にも由緒のあるブロックで、青々と街路樹が茂る歩道に、よく手入れされた煉瓦造りのアパートメントが立ち並ぶ閑静な住宅街です。1880年に建てられたSankofa Aban B&Bのブラウンストーンビルディングも、先祖代々にわたりステンドグラスや“Wedding Cake icing”と呼ばれる壁のプラスター装飾、モールディング、ウッドワーキング等のオリジナルディテールをそのまま保存し往時の趣を残しています。現在のオーナー、Debbie McClainで6代目になるそうです。現在はゲストルームが4室あるB&Bとして世界中からの旅行者に利用され、一階のパーラーは結婚式等のイベントにもレンタルされています。

因みに、ひと昔前のベッド・スタイ(ベッドフォード・スタイバサントを短くした呼称)と言えば、中心エリアは治安が悪く物騒な事で有名でしたが、このSankofa Aban B&Bあるブロックはクラウンハイツと称してもいいくらい、ベッド・スタイの南西の端に位置し、地下鉄の駅にもとても近い文教地区です。

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さて、ジェブが出演したThe Brownstone Jazz『父の日の週末』の出演者はこちら。

6/17 (FRI) Pre Farther’s Day at The Brownstone Jazz FEST & Fish Fry
Marion Cowing (Vo.), Jeb Patton (P), Eric Lemon (B) and Bobbie Sanabria (Ds)

6/18 (SAT) Farther’s Day at The Brownstone Jazz FEST & Fish Fry
Philip Harper (Tp), Jeb Patton (P), Eric Lemon (B) and Bobbie Sanabria (Ds)

17日のゲストパフォーマー、マリオン・コーイングスはベテランのジャズヴォーカリスト。お歳の割に歌声は若々しく、ハンサムでお洒落で素敵な老紳士。昔のスタンダードもビバップチューンもポップスもその場の雰囲気で自由自在にヒップに歌いこなします。18日のフィリップ・ハーパーは若かりし頃、あのArt Blakey and the Jazz Messengers、Charles Mingus Big Bandにも参加していた実力派のトランペッターです。ハードバッパーも今や燻し銀の味わい。彼は実は歌も歌うんです。声に温かみがあって、味があります。

そして二晩続けてのリズムセクションを簡単にご紹介。ドラマーはボビー・サナブリア。彼はラテンジャズの大御所で、NYのアフロキューバン・ジャズシーンの生き字引のような存在。自己のコンボとビッグバンドをオーガナイズし、あらゆるラテンのリズムを叩き出します。ベーシストのエリック・レモンはこのB&Bのオーナーのデビーの旦那様。彼女と共に、このThe Brownstone Jazzシリーズをブッキングし演奏とMCを担当。ライブでは昔の古き良きベッド・スタイのジャズシーンを語ってくれます。そしてピアニストは主人のジェブ・パットンです。

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Sankofa Aban B&Bのパーラーにあるなんともアンティークなピアノは、なんとDizzy Gillespie (Tp), Charlie Parker (As)等と共にビバップを牽引したジャズピアニストのBud Powelも弾いていたという由緒あるピアノです。その他、今は亡き有名なジャズミュージシャン達も若かりし頃に、このパーラーでセッションをしていたそうです。

「60年代のベッド・スタイにはセミ・メジャー・ジャズクラブと呼ばれたヴェニューが20軒ほどあったんだ。地元のみんながMax Roach (Ds)が演奏しているクラブの事や、こっちのクラブではHank Mobley (Ts)、あっちのクラブではMiles Davis (Tp)なんていう風に、隣近所で話題にしていたよ。今やもうこのコミュニティーにジャズは残っていないから、最後に残った僕たちがここで頑張っているって感じだね。昔からこのパーラーにもブルックリンを本拠地にするジャズミュージシャンが集まってセッションしていたんだ。近所迷惑だって?このビルは地下から最上階までひと家族の家だから、家主がオーケーなら問題は無かったんだよ。」

エリックが演奏の合間に出演者の紹介し、興味深い往時の話を客席にいるデビーやお客さんを巻き込んでお喋りしながら和やかに演奏は続きます。お客様の中には地元のファン以外に初めての方も多く、B&Bの宿泊客やお誕生日のお祝いを兼ねて参加したというグループもいらっしゃいました。ファーストセットの後にインターミッション。ギグのタイトル“The Brownstone Jazz FEST & Fish Fry”にもあるように、出演者もお客様も一緒にデビーが振舞う揚げたての白身魚のフライとコールスロー、コーンブレッドで腹ごなし。会場のみんなが和気藹々となったところで、セカンドセットになります。両日ともセカンドセットは私も飛び入りで歌わせていただきました。マンハッタンのメジャーなジャズクラブと違い、ミュージシャンとの距離が短く、アットホームな雰囲気の中でジャズを身近に楽しめるアットホームなThe Brownstone Jazz。あっという間に楽しい時間は過ぎていきました。

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「Kazue、また来て歌ってちょうだいね!」とデビー。
40代の息子さんがいるとは思えないほど若々しい彼女は、ご近所の肝っ玉母さんという感じ。
最後にリアパーラーで彼女と記念写真。

チャンスがあったら、皆さんも是非体験してみては如何でしょうか。
こちらの予約はhttps://www.facebook.com/sankofa.abanでスケジュールを確認し、インターネットで$40を事前に支払う形式です。演奏は午後9時から11時半頃まで2セットです。

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